権威の否定と高齢者軽視 〜子供向け読み物やZ会教材から
子供の触れる絵本やメディアで、権威の否定や高齢者を敬うことへの軽視が見られることを以前から少なからず感じていました。
そして最近、小学校に入学する長男のためにZ会の通信教育の資料を取り寄せたところ、お母さんにインタビューをしようという国語の課題で、「おじいさんに直してほしいところはありますか?」という質問例が示されていました。
どうしても違和感が拭えず、これを機にこのテーマについて書いてみたいと思います。
「おじいさんの直してほしいところ」
Z会の新一年生向けの国語のサンプル教材で、話す訓練として、お母さんにインタビューをしようというものがありました。質問例は以下の通りです。
「おかあさんのおとうさん、つまり、ぼくのおじいさんはどんなひとですか。」
「どんなところがすきですか。」
「なおしてほしいところはありますか。」
三つめの質問には非常に違和感があります。それを聞くのなら、「尊敬するところはありますか」であるべきではないでしょうか?
我が家も両祖父とも厳格というよりは、親しみやすい存在として孫達をかわいがってくれています。上のような話題が冗談半分に出るような家庭があるだろうことも想像できます。しかし、Z会のようなところが教材としてこの質問例を載せるのはおかしいと思わずにいられません。
ルールを守れないおじいちゃん、子供に馬鹿にされる博士
国土交通省発行だったかと思いますが、以前子供が園からもらってきた絵本風の交通安全の啓蒙パンフレットがありました。記憶ではおよそ以下のような内容でした。
家族三世代で、お父さんの運転する車に乗ってお買い物に出発。すると「おじいちゃん、シートベルト締めなきゃダメだよ」。お父さんお母さんも子供達も締めているのに、おじいちゃんだけ締めておらず、孫が注意をする。
もちろんシートベルトの着用義務は昔はなかったのでしょう。子供主体に描くことで、読む子供にも共感を持たせようとしているのかもしれません。
でも、本来逆ではないでしょうか?おじいさんが孫に教えるという形だったら良いのにと思います。少なくとも我が子達には、そのような感覚を持たせたいです。
また、学問を修め、世の中に役立つ研究をして、尊敬されて然るべき「博士」。子供向けの電車のDVDを見ていたら、案内役としてアニメの絵で博士と二人の子供が登場します。博士は電車のことに詳しく色々教えてくれるのですが、下らない冗談を言い、子供達に馬鹿にされるという場面が繰り返し出てきます。
小さな話ではありますが、子育てを通じてこのような例は非常に多く目にします。日本の根本的な文化・価値観が変化していることの表れであり、決して良い変化ではないのではないかと心配です。
絵本の今昔 〜立派なお殿様から間抜けでお茶目なお殿様への変遷
権威の描かれ方が、昔と今で異なる例は色々あるかと思います。
「とのさま1ねんせい」という、小学校に上がるくらいの子供向けの絵本があります。直接読めていないのですが、ダメなところばかりだけれどお茶目なお殿様が、家来達に助けられながら小学生になっていくというお話のようです。
今はお殿様と言えば、悪者か、ダメな人か、という描かれ方が多いのではないでしょうか?
我が家で愛読している「講談社の絵本」シリーズ(戦前、戦後はどこの家庭にもあったベストセラー絵本シリーズの一部を現代向けに改訂復刻したもの)の「花咲爺」や「金太郎」、「牛若丸」など読んでいると、殿様は立派だ、殿様になりたいと子供達は思っています。でも最近の絵本を読んだ子供達は、決してそうは思わないだろうと思います。
守破離 〜肯定があってこそ打破も生まれる
殿様を立派で、従うべき存在として疑問なく捉えるのも、問題がないとは言えないかもしれません。しかし、子供達を取り巻く環境は、あまりにも権威に否定的な風潮に偏りすぎているようです。
権威があってこそ打破があり、敬い従うという基本があってこそそれに対する反抗も生まれる。「守破離」ではないでしょうか。今の子供達が見ているのは、そもそも何もない、ふわふわとした世界のようです。
家では講談社の絵本を読むくらいで、ちょうどバランスが取れると感じています。
ちなみに、フランスの世界的ベストセラー「ぞうのババール」では、ババールは親しみやすくも権威ある王様として描かれているように思います。
これらは、ひとつ前の記事に書いた「楽しさ」を強調した入学式や学校側の態度というものとも、どこか関連したところがあるように思います。
子供達が今の日本社会にも馴染めるようにしつつ、家での価値観は家での価値観として持ち、伝えていければと思っています。
補足:「スーホの白い馬」の階級闘争思想
絵本と言えば、名著と言われる「スーホの白い馬」。数十年前から小学校の国語教科書にも多く掲載され、赤羽末吉さんによる絵は子供心に印象的で、私も子供が生まれてから早速買い求めました。
しかし、改めて読むと権威否定の思想が色濃くあることに驚き、心に響く素晴らしさのある絵本であるからこそ、子供達に読ませるのに少し抵抗を感じるようになりました。
するとちょうどその頃、日経新聞の文化面で、この話の原作はモンゴルにはなく、階級闘争思想に基づき中国人が編集した説話集を元にしていると知り、非常に納得することになりました。この話題はまた別途書く機会があればと思います。